ジーマサ -新世界-

歩道にはみ出すようにして乱雑に置かれた電飾スタンド看板。

そこにうつるのは、リラクゼーションの文字と、少しエキゾチックで妖艶な雰囲気の美女。

店によって、赤やピンクのものもあれば、黄色や緑のもの、青色のものもある。

街が夜になってくると、立体の内側からじんわりと灯りがともり、看板の周りについた電球は賑やかに点滅して光がくるくると駆け巡る。

「妖しげ」というよりは「怪しげ」なフォントで店の名前が示され、その名前も、漢字一文字や漢字二文字といったものから、カタカナ、英字のものまでと様々だ。

それがいわゆるジーマサの看板だ。

当ビル○階にその店があるのだと、あれほどまでに輝いて看板は導いているのに、道行く人々の多くは、まるで自分と無関係のことかのように視界にも留めず、ただその眩しさに目を細めながら通り過ぎていったりする。

看板が導くさきの世界を、普段は知らないふりをしているだけなのか、本当に知らないのか。

本当に知らないのだとすれば、街の至るところにある、こんなにも分かりやすい、楽園への入り口をスルーしてしまえるほど、人間というのは臆病な生き物だということだ。

まずは行ってみて、違ったのであれば、引き返せば良い。それだけのことなのに、なんか怪しいからとか、中国人がやってる店だからと、新しい世界を知ろうとしない。

かつての自分がそうだった。
でも一歩踏み出した。

看板の横を抜け、雑居ビルのエレベーターに乗り込んだその時点でもう、ボディソープのようなアロマオイルのような香りと、シャワールームから漏れてきたような湿気とか熱気に包まれる。

エレベーターが無く、階段を登るタイプのときも同じことで、一段一段駆け上がるごとにその匂いに近づいて気持ちも昂ぶっていく。

入る前からその扉の向こうに楽園が待っていることが確実に分かるのだ。


そして、チャイムを押す。

知り合いが住んでいるわけでもなんでもない部屋のチャイムを。


ガチャ

新しい世界が開く音がした。

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後世に語り継ぎたい名文やわ。
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